君と手を繋ぎたくて








そしてこの、今握っている右手が、優志先輩の左手に、しっかり掴まれたんだ。

優志先輩が手を握るなんて、珍しい。

まぁ、あたしたちは恋人らしい行為は何もしていないから、全部が珍しいんだけど。





珍しいことなのに。

あたしは溜息をついた。

…馬鹿だ、自分は。





優志先輩が握ってくれた。

その光景だけは、しっかり覚えているのに。

優志先輩の手の感触を、すっかり忘れてしまった。





先輩が掴んでくれるなんてこと、この先あるのかわからないのに。

その貴重な感触を、忘れてしまったなんて。

馬鹿にも、ほどがある。





優志先輩は、誰かに触れたことがない。

佐竹先輩が親しげに肩に手を置いただけでも、拒絶反応に近いものを見せていた。

きっと触れられない原因が、優志先輩にはあるんだと思う。

それが、優志先輩が恋愛に対して臆病になったきっかけだと思う。





……なんて、探偵みたいなことを考えてしまった。

どこか怪我して、可笑しくなったのかなあたしは。

でも、どこも痛みなんて感じない。

寝ているからかな?






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