君と手を繋ぎたくて
普段無表情な先輩だから。
こんなに笑顔を見ることが、初めてだから。
嬉しい半面、疑問を抱かずにはいられない。
「何か、あったんですか?」
「何もないけど?」
ぐし、と目元を拭う先輩。
腕をおろしたその顔は、やっぱり微笑んでいた。
先輩の笑顔を見られるのは、凄く嬉しい。
保健室にはあたしたち以外誰もいないから、独り占め出来ているし。
…だけど、先輩…何かあったのかと凄く思えてならない。
「ヒナちゃんが無事で良かったよ」
あたしの疑問を気にもせず、先輩は笑ったまま言ってくれる。
あたしは苦笑いを浮かべながら、「先輩のお蔭です」とお礼を言う。
「どこも怪我していないみたいだね。
どこか痛むところとかある?」
「ないです」
「良かった……」
本当に、心から安心した微笑みを見せる優志先輩。
その笑顔は、少しだけ痛々しくて。
あたしの中から、疑問が消えることはなかった。