偏食系男子のススメ【完】
思いがけず聞こえてきた自分の名前に眉を顰める。
……私に手玉にとられてる男だなんて、酷い認識のされ方だな、私に。
もし仮に男を手玉にとるとしても、絶対早川なんてごめんである。
あんなやつ、誰が好き好んでそばに置いておくか! 私はそこまで悪趣味じゃない。
と、今すぐ飛び出して怒鳴りつけてやりたいのをじっと堪えて、足を組み直した。
我慢だ我慢。これから先円滑にトラブルなく平和な高校生活を送るためには、時には聞いて聞かぬふりをすることも重要だ。
第一面倒くさいし。
特に、こんな風にきゃぴきゃぴした感じの、女子トイレで他人の噂しているような女なんかは。
「あの変人カップル、濃いよねー」
「っていうか、見ててウザい?」
「アハハ、調子乗ってるっていうか?」
「藤島のこと泣かしてみたいよねー。ウチらの怖さ、見せつけてやりたい、みたいな?」
……怖さどころか、あんたらの存在さえ私は認識してないっつーの。アホらし。
相手にする価値もない。
変人カップルと間違われたことはムカつくけど。
変なのは早川一人だけなのに誤解しないでほしい。迷惑だ。まずカップルじゃないし。