偏食系男子のススメ【完】
「……あーちん」
急に呼ばれた。
最早懐かしいその響きに、頭をガンッて鈍器で殴られたような衝撃が走った。
……あーちん? 確かそれは、川端さんが私につけた気持ちの悪いあだ名だったはず。
なんでその名で呼んだのか。
無意識に呼吸が止まっていて、苦しくなって一気に息を吐き出した。
いつの間にか私の手首は離されていたけれど、立ち上がって少し背伸びした彼女に抵抗する暇もなく、マスクを一気に脱がせ取られてしまう。
「……あ」
川端さんの腕に抱かれたそれを慌てて追いかけるけれど、もう遅いと気付いて顔を両腕で覆ってバリアした。
……嘘、油断した。思いっきり気が抜けてた。
「……あーちんもうバレバレだから」
……そりゃそうだわな。
遠慮がちな声に背中を押されて、腕を下げたけれど、川端さんと目を合わすことはできない。
バレた。バレてしまった。でもだとしたらいつのタイミングで。