偏食系男子のススメ【完】
今までわざと私の暴力を受けてきたのではないだろうかと思うほど華麗に止められてしまったから、少し面食らう。
「余裕ないもん、俺」
「な、なにがっ」
「藤島が他の男と付き合うこと想像しただけで怖いよ」
「知るか、早く離さないとこっから突き落とすよ」
「バーカ藤島。ゴンドラってのは外から鍵かけられてんの。中からは絶対開かねえよ?」
「窓叩き割って落としてやろうかっつってんの」
「……怖いよ藤島サン」
引きつった顔で笑った早川だけれど、私の左手を解放してくれる気はさらさらないらしい。
これは本気で突き落としてやらないと目を覚ましてくれないのかも。
でも両手の自由が利かないから、それも難しい。
「……あとちょっとだけ。我慢してこうしてて」
「嫌だ無理。離して」
「……頑固だなー藤島も。分かってる? ここ密室だよ? 俺、本気出したらどうなるか分かんない?」
「な……っ」
「俺も精一杯我慢してるんすよ、これでも」
「ほんと一回死ね……っ!」
にやっと悪戯っぽく余裕の表情で笑った早川は、攻撃を仕掛けた方の私の右手を解放してくれた。