run and hide2~春の嵐~
1、それはそれは「可愛い女子」
晴れて風の強い日には、青い空も全部桜の花びらでピンク色で埋まっちゃうのではないか、と思えるそんな春の日。
相変わらず多忙な我が社の我が企画グループに、中途採用の女の子が入社してきたのだ。
「田中陽菜子と言います。どうぞ宜しくお願いします」
ぺこんと頭を下げた彼女は事前に入手したペーパーによると年齢は26歳。肩までの黒髪がツヤツヤと光り、微笑めば口元にえくぼが出現するどこからみても「ピチピチの」女の子だった。
いや、世間一般的にはすでに26歳は女の子とは言わないのかもしれない。だけど、今年32歳の私にしてみれば26歳なんてまだまだ若い女の子なのだ。
私は梅沢翔子という。企画会社のここに中途採用されて、それ以来必死で仕事をこなしてきたわけで。だけどもう結構な年月が経ち、ある程度の仕事に自由もきくし、長年片思いしていた男と恋人になるという夢もかなった今、まさしく順風満帆といえる人生だった。
折りよく季節は春だし。
あたたかくなれば外回りだって楽になる。なんせコートを持ち歩かなくていいだけでも御の字ってものなのだ。そんなわけで機嫌よく、私は人生でも春、もしくは初夏あたりを満喫していた。
営業の私とシステムの亀山、それからシステムの田島君とサポートをしてくれる牛田辺さん、その4人でグループを構成している。この度サポート全般担当の牛田辺さんが結婚によりパートタイムへおりるので、補佐が必要になったのだった。
そして雇われた子が――――――――この田中陽菜子さん。
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