run and hide2~春の嵐~
くいくい、と何かの抵抗を感じてはっとした。
「梅沢さん、梅沢さん」
隣で田中さんが指で私のスーツを引っ張っていた。オメメが信じられないくらい大きくてキラキラしていた。
・・・あ、つい忘れてた。私は後輩に指導中なんだった!私は顔が赤くなっていないだろうかと心配しながら、コホンと空咳をして正輝へ言った。
「えーと、こちらは田中さん。うちのチームに入ったばかりの新人さんなの。それでこちらが――――――」
「井谷です。今の時期に参加ってことは転職組みなのかな?」
紹介する私の後を引き取って正輝が田中さんに微笑みかける。正輝の営業スマイルをみたのは久しぶりだった。田中さんは隣で、はい!と大きな声で言った。
「そうなんです~転職してきたばかりです!今日は梅沢さんの付き人なんです~」
てへ!と漫画の噴出しがついてきそうなノリと笑顔でそう話す田中さんの隣で、私は驚いて引きつっていた。
・・・・え、ナンなの、このキャラクター?どこから出した、今?さっきまでは普通に立っていたその足も、くっきりと内股になっているのに気がついてしまった。
だけど正輝は気にならなかったらしい。普通に頷いて、頑張って下さいと返している。
「じゃあ、行くかな。また連絡する」
私の方を向いてそう言った正輝の声で我に返って、私は急いで頷いた。
「うん、お疲れ」
じゃあな、と歩き出す正輝が一瞬だけ振り返って、ちらりと含んだ笑顔をくれた。私は一瞬でバラ色の波にさらわれて、今度こそ頬が赤くなるのが判った。