run and hide2~春の嵐~


 今日はバカ上司のせいで夜が台無しになった。私の素敵なジン・トニックも、素敵なマスターとの会話も消えた。それに今では疲れた夜のハイライト、ベッドの上での正輝との電話だって露となって消えてしまったってわけだ。

 今晩は出来そうにもない。いつもの嬉しがる声を何てことない声にかえて電話をするのも。眠たい目を無理やりこじ開けて、彼と電話で話すのも。

 インド料理のこじんまりした店のドアを押し開けて、私は明るい声でウェイターに告げる。

「二人」

 今晩は、慰労会。さっきまでの私達の頑張りと、明日どうするか、の相談もかねての同僚との夕食。

 そこに恋だの愛だのは入れたくないのよ。

 だって私は、今までだって仕事に生きてきたんだから。

 この数時間恋愛話を忘れることなんか簡単に出来る。・・・絶対に、やってやる。


 元々飲めるけれども私とは一緒には飲まない亀山が、これまた珍しく飲み放題に付き合ってくれた。

 くうう、って私はテーブルの下で拳を握りしめる。憎いことしてくれるじゃないの、亀山!あんた、いつもより格段にいい男に見えるわよ!これは絶対アルコールのせいだと断言出来るけど。

 何杯もお代わりをして、私は我慢していたタバコも自分に許しまくった。亀山もほとんど霧状態になってしまったテーブルの向こう側で、文句も言わずに座っていた。

 私達は色んなことを話した。今日の仕事のこと、バカ上司のこと、明日の天気のこと、亀山が好きなコンピレーションアルバムのこと、それから家族や友達のことまで。

 いつもの会話の30倍ほども。

 語りつくした。


 正輝と田中さん、以外のこと全部―――――――――――――





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