run and hide2~春の嵐~


「まだ。メールも電話もしてないわ」

 私はカップをテーブルに慎重に置きながら答えた。

「・・・きかねーの?」

「そんな暇が今までにあった?」

「もうこっちは終了したんだから、今からいくらでも時間はあるだろう」

 やっと亀山がこちらを見た。

「・・・何であんたが気にするのよ」

 ムスッとした私がそう言うと、目を半眼にした亀山がうんざりした声で答えた。

「お前が彼氏と何かがあると、途端に使い物にならなくなるのが今までで判ってる。マジでヒドイ状態になるってことが。今回は危機を乗り越えたけど、企画が完全に終わるまでは平常心でいてもらわなきゃ困るんだ。これはお前の考えたイベントだし、俺一人では到底カバー出来ない」

 ・・・おっしゃる通りです。あううう~。

 私はテーブルに額を押し付ける。

 いつも、正輝のことで凹んだ私は仕事が出来ない女へと変わってしまうのだ。それで亀山には数々の迷惑をかけてきたわけで―――――――――今回もそうなりそうだって、ヤツが気にするのは尤もだ。

「・・・ごめん。何とかするわ」

 ふうう~、と、亀山の大きな深呼吸が聞こえる。

「頼むぜマジで。それか、イベントが終わるまでは完全にこっちに集中するか。どっちかにして、間違っても奈落の底へ勝手に落ちるな」

「・・・へーい」


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