run and hide2~春の嵐~
パッと顔を上げた田中さんは今日もキラキラと生命力の光を放っていた。すっきりとした細身のスーツ。完璧な化粧と若い笑顔。寝不足で二日酔いの私とはえらい違いだ。
じゃあちょっとすみません、と牛田辺さんに言って、嬉しそうな顔でこっちへと出てくる。
亀山が窓際から見ているのが判っていた。
私はもう無言になって、さっきまで使っていた会議室へと戻って行く。よし、私の個人的な戦いの開始よ。攻撃は最大の防御なり。・・・というか、どういうことだったのか判らないのよ。だから田中さんから、とりあえず話を――――――――――
「入って」
「はーい」
相変わらずニコニコと笑っている彼女を会議室へと招きいれ、私はドアをしめて椅子に座った。
それから出来るだけ睨まないように努力して、口を開く。
「あのね、田中さん。実は昨日、あなたと私の彼氏が一緒にいるところを見てしまったの」
言葉に出すだけで心臓が痛んだ。
小さな傷なんかではなく、それは斧を振り下ろされたかのような大きな傷で、今でもどくどくと出血している。
「そのことを、話して欲しいのだけれど」
あら、と声に出さずに言って、田中さんも真面目な顔を作ろうとしているのがわかった。だけど早々に諦めたようで、やっぱりニコニコと笑顔のままで喋りだす。
「はい!昨日、梅沢さんの彼氏さんには会いました!バッタリだったんです~。まさかの遭遇!驚いたけどあたしは顔も覚えていたんで、ご挨拶しました!」
・・・・・・・・マジかよ、それ?