run and hide2~春の嵐~
とりあえず、それだけは言った。本当は雨嵐の断り文句と突っ込みが心の中を去来しまくっていたけれど、口から出たのはそんな言葉だけだった。
はい?と田中さんは首を傾げる。彼女の耳元で私好みの大ぶりなピアスが揺れて光った。
コホン、と私は咳払いをする。それで目の前の彼女を罵倒したい気持ちを何とか押さえ込んだ。
「・・・彼に、聞いてみないと。今はあっちも忙しい時期だし。それよりも相談なら私でも受けるけど、男友達のことなら亀山や田島君はどう?」
チームにいるでしょ野郎が二人も!私はそう心の中で呟いて、彼女に問いかける。実際のところ、手が震えそうでテーブルの下に隠していた。
田中さんはうーんと可愛らしく小首をかしげて、困った微笑を浮かべる。
「社内の人間には、ちょっと~・・・」
「困るの?」
「はい」
「それは・・・どうして?」
いやだ、梅沢さんったら!そういって、田中さんはひらりと立ち上がる。
「男友達って社内の人間なんですよう!だから知り合いじゃないほうがいいんです~」
私はひきつった顔で何とか笑う。・・・そう、目をつけているのは正輝だけじゃあないってことなのね。それはアピールなの、それとも何かのアリバイ作りの為なわけ?私は、低くなってしまった声で言った。
「そう・・・じゃあとにかく彼に聞いてみるわね、また返事をするわ」
プライドが邪魔をしたのだ。本当は「嫌にきまってるでしょ!私の男に近づかないで!」って叫びたかったけど、出来なかった。