run and hide2~春の嵐~
今までの社会人経験が。それから大人の余裕ってやつが。私のプライドを構築する色んなものが、その時全力で「わたし」の邪魔をしたのだった。なんてことだ!同じ私なのに。片方が嫌がることを、片方が引き受けてしまう。
田中さんはにっこりと大きく微笑んで、嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます!じゃあ、あたしは仕事に戻ります~」
バタバタと小走りで会議室を出て行く。彼女の残り香がふんわりと漂って、私はハッとした。
・・・・これは、私の好きな、エリザベス・アーデン・・・。
その夜、久しぶりに正輝に会った。
帰社直前にきた、彼からのメールで私は都心へと向かう。
今日は直帰でいいからと笑う正輝と一緒に歩いて、初めてのイタリアンの店に入ったのだ。
心がざわざわしていた。だからいつも通りには笑えていなかったと思う。それに、いつはする正輝用のお洒落もしなかった。化粧は直してないし、ストッキングも履き替えてない。
「デート自体が久しぶりだよな」
彼の言葉にも無言で頷く。触れたいのに触れたくない、そんな矛盾を全身で感じていた。
正輝が寛いだ表情でワインを注文し、それがくるまでイライラして待っていた。
「どうした翔子、今日はえらく尖った雰囲気だな」
いつもは心とろけそうになる彼の笑顔も届かない。
私は不機嫌をどうにか隠そうとして、確実に失敗していた。
「――――――ちょっとね、気分が悪いことがあったの」