run and hide2~春の嵐~
正輝は椅子へもたれて、私を見る。話を促しているのだ。こうやって彼はいつでも私の話を聞いてくれる。それはいつもは素晴らしく嬉しい態度なのだった。だけど今晩は・・・・喜べそうにもない。
「・・・仕事がうまくいってないのか?」
私は一度深呼吸をした。それから、やっと届いたワインを一口飲んで喉をしめらせ、彼を見る。
「違うの。仕事じゃない」
「ならどうした?」
正輝もワインを飲む。あまりお酒に強くないのに、料理が来る前に飲むとは。きっと私の緊張が彼にもうつってしまっているのだ。
私は無意識に姿勢を正して、口を開いた。
「ねえ正輝。うちの新人の田中さんに、昨日、会ったでしょう?」
ん?と彼は首を捻った。結構な勢いで瞬きをしたのに気がついた。私は唾を飲み込んで彼の返事を待つ。
「ああ、うん、そう、会ったよ。あの子に聞いた?接待の帰りに歩いていたら、声を掛けられたんだ」
とりあえず、状況は同じようだわ。私はそう心の中で呟いて、頷いた。
「そう、会ったんだってね、田中さんに聞いたの。・・・えーとね、あの子が言うには、なにやらあなたに相談があるらしいのよ。男友達について、とか何とか言ってたわ。・・・どうする?」
グラスに入った、よく冷えたスパークリングワイン。それを飲み干したい欲望に耐えながら、私はなんてことないって顔を作って聞いた。
・・・正輝。
どうか断って。一体何で俺が?って呆れて笑ってしまって欲しい。ねえ、お願いだから、正輝――――――――――
「相談?ああ、構わないよ。いつでも」
正輝はいつもの笑顔で頷いた。