run and hide2~春の嵐~
それから続けて言う。あの子、彼氏とうまくいってないのかな?それともそうじゃなくて、好きな男がいるのかな。俺で力になれるか判らないけれど、俺でよければ都合つけるよ、って。
指先が震えた。
「―――――――」
言葉が出てこずに、私はワイングラスを引っつかむ。それから一気に飲み干して、どくどくいう鼓動を無視した。
「翔子?どうしたんだ本当に」
正輝が首をかしげてこちらを見ている。
前菜が届き、テーブルの上が華やかになった。私はそれも視界から押し出そうと窓を仰ぎ見る。今は邪魔だわ。ナプキンも前菜も華やかなテーブルクロスも。アルコール以外、何もかも。・・・畜生。
ふう、と一呼吸おいてから、私は正輝に向き直った。
言わなきゃ。言わなきゃダメよ、翔子。嫌なものは嫌って、ちゃんと伝えなければ。私の大好きなこの男は鈍いんだから。そう鈍いの。言わなきゃ、正輝には伝わらない――――――――――多分。
「正輝、私はいやなのよ」
「え?」
フォークにサラダをのせていた彼が、ポカンとした顔で私を見る。
「・・・田中さんとあなたを会わせるのが、私は嫌なのよ」
正輝はそのままフォークを口に運ぶ。それを食べながらちょっと考えるような顔をして、私を見た。
「どうして?」
気付きなさいよ、この鈍感!叫び出したい気持ちをぐっと飲み込んで、私は押さえぎみの声で言った。
「昨日偶然会ったことすら、正輝が言ってくれなかったことも嫌だったわ」
驚いたようだった。目を大きく開けて、彼はぽかんとした顔をしている。くそ、スリッパがあれば叩いてやりたい。