run and hide2~春の嵐~
で、正輝には。
メールの返信はした。いずれも無愛想極まりないものだったけれど、無視はしなかった。電話はやっぱり破壊力が半端ないので、適当に誤魔化してやり過ごした。
だってあの愛しい声が!!私の耳に直接流れ込んでくるのよ!それを無視するのは非常な労力が必要だったのだ。
だからある時には電波障害を装ったし―――――『あ、あれ?正輝?おーい、聞こえてるー?』と言いながらボタンを押す――――――――多忙を理由に会うのは避けていた――――――『ダメなのよ。それが。再来週まではとても。あ、電話だわ、ごめんね』といって即切る――――――――から、切なさは募っても心は折れずに済んだ。
そして、少しずつ姿も変えたのだ。
大きめのアクセサリーを小粒仕様に変えた。元々は正輝の好みで集めていたアクセサリー、勿体ないからって捨てなくて本当に良かった。
控えめだけど上質なダイヤのピアスが小さく耳朶で光る。それを強調したくて、ハニーベージュだった髪色にアッシュブルーをいれて暗めにし、ふわふわに膨らませていた猫毛をストレートのボブに変える。
ピンストライプのスーツはやっぱり好きだから変えなかったけれど、スカートをパンツにし、スカーフなどを多用するようにした。
かなり外見の印象は変わったのだ。化粧は変えずとも、女性は自分のイメージを簡単に変えることが出来る。早朝や夜にやっと会社に戻った時、すれ違う同僚が「おお、イメチェン?いいよ似合ってるー」って声をかけてくれることで、私はいたく満足したのだ。
よしよし、それにあまりあってないから、田中さんは私の真似をするのに追いつかない模様。