run and hide2~春の嵐~


 ゆ~っくりと近づいて静かに来客ブースを覗いたら、椅子に腰掛けた正輝とバッチリ目が会った。

「――――――」

 私は一瞬声をなくしてしまう。

 今までだって、2週間やそこら会えないことなんて普通だった。どっちかが出張していたり、繁忙期だったりすれば。

 だけど今回みたいな感じで離れていたことは、恋人になって初めてのことだ。

 顔を見た時。

 強烈に、感情がこみ上げてきた。

 ぐぐっとお腹の底から。すぐに全身にまわって、私の冷静でない頭を更に混乱させていく。

 ・・・・ああ、正輝。正輝だ。わお、本物だよ。うわー・・・・。

 衝撃に震える私の目の前で、彼が立ち上がった。まるで営業同士の挨拶をするようなタイミングで。

「髪型、変えたんだな。色も長さも」

「・・・うん」

 イメチェン中の私を観察するようにじっと見て、それから笑顔ナシの顔で言った。

「悪いけど」

 周囲を気にしてだろう、声は抑えられていて低かった。だけどそれは真っ直ぐに私の元へと飛んできて、胸のところで当たって消える。

「話し合いが必要だけど毎回逃げられるから、仕事中に来た。忙しいのは判ってるし邪魔したいわけじゃないから、5分ほどでまとめてくれないか?どうして俺は、翔子に避けられてるんだ?」

「――――――・・・」

 とりあえず、口は開けた。

 だけど何も言葉が出てこないから、私は諦めてため息をつく。

 ・・・この複雑な状態を、会社の来客ブースで5分でまとめて話せって?


 無理でしょ、それ。


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