run and hide2~春の嵐~
「・・・あ~・・・」
完全に困った状態で、私は冷や汗をかきながらとりあえず笑う。
こういう時に自動的に笑顔が出るのは、長年の営業生活のくせだ。それは正輝も同じはず。端からみたらニコニコと挨拶を交わしているように見えていたかもしれない。
だけど、やめてくれーな修羅場だった。うん、個人的には、よ。正輝がどう思ってるかは知らないし。
意味もなく両手を振ってみたけれど、妙案は浮かばなかった。
ああ・・・今すぐ昔薬局の前によくいたカエルに変身したい。ケロリンとかいった、あの緑の置物。あのなんだかな~な人畜無害の顔をして、正輝をやり過ごしたかった。・・・無理だろうけど。
まさか会社に来るとは思ってなかった。それも午前中に。きっとミーティングのあとしか捕まえられないって考えたんだろう。一度そんな話をしたことがあったし。
職種は同じ営業なのだ。会社は違えど、普段の行動は読めるはず。
・・・ってことは、正輝は自分の会社のミーティングをすっとばして来たのかも。
・・・ってことは・・・かなり、本気モードなのよね。
ガックリ。
私はそこまで考えて肩を落とす。それから彼の方を見もせずに言った。
「お茶しにいきましょ。ジャケット取って来る」
正輝の返事が聞こえなかったので、私はちらりと後ろを振り返った。すると首を傾げた正輝。相変わらず私をじいーっと見ている。
・・・くそ。私は仏頂面でぼそぼそと言った。
「・・・逃げないわよ。財布もいるからちょっと待ってて」
彼は頷いた。
「じゃ、エレベーターのところにいる。非常階段もあそこにしかないしな」
・・・・ちっ、信用ゼロだわ。