run and hide2~春の嵐~
小首傾げつき。
「・・・誰のであろうと、例え上司のであろうと、食器を片付ける必要はないわ」
「え?」
大きな瞳をぱちくりさせて、彼女はじいっと私を覗き込んだ。何だその子犬のような目は!正直なところ、私はおぞ気が立った。なんていうか、その場に広がる「女の気配」にぞっとしたのだ。
私だって女だ。お洒落することは好きだし、いい男には漏れなく反応する。だけど、これは・・・「あの女」と学生時代に呼ばれるような子の気配がムンムンだ!
判るでしょ?判るよね?女性には普通の態度、もしくはきつめの対応、だけども男性陣には、特に自分がこれと決めた男には存在の全てをかけて突進する女達のことだ。ほら、無意識でもそんな行動をしてしまう人、学生時代にもいたでしょう!?
目の前で両目を大きく開ける田中さんからは、まさしく「女」の匂いがした。
「いいんですかあ?だって男性の、しかも先輩ですよ?」
がっつーん、と結構な衝撃。私の後ろに誰か立って、トレーで頭を殴られたのかと思ったほどだった。
瞬きを繰り返して何とか深呼吸をする。完全に、この子、違うわ。そう思いながら私は椅子に座りなおす。それから最初の新人教育へと乗り出したのだ。
「・・・田中さん、ここは日本であって、正しくは日本ではないの。外資系の会社はどちらかというと女性をエスコートする男性が多いくらいだし、特にうちの会社はそうなのよ。それに同僚はイコールの関係で、同じチームだとあってはそんなに上下関係はないの。いい?誰のであっても、食器・を・片付ける・必要・は・ありません」