オトナの恋を教えてください
「はい、志辺さんの作ったデータベースですよね」


志辺さんは社内の膨大な資料のすべてを管轄している。
ただの整理というレベルではない。

毎日やってくるすべての資料に目を通し、関わっている企業や共通する部材によって、内容ごとに分類して管理している。

たとえば、営業部が『○○建材に関わるデータがすべてほしい』といえば、検索ワードで10年遡った資料まで取り出せる。
『□□社の熱可塑性樹脂のうち△△工業から原材料を仕入れている製品だけ知りたい』こんな一部的な情報でも、検索可能なのは志辺さんが資料を完全に理解して、データベース化しているからだ。

書類を紙ベースで保存するのは10年というのが社内規定。
志辺さんがデータ化してくれたおかげで、社員はそれより以前の資料も閲覧できる。


「これを三条さんに引継ぎたいんだ」


志辺さんの口から出た思わぬ依頼に、私は目を剥いた。

え?
こんな難解なデータベース化処理を、新人の中でも特にできの悪い私に?

そりゃあ、データ管理部の新人は私だけ。
でも引き継ぐならベテランの宇都宮さんか山梨部長じゃない?
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