オトナの恋を教えてください
結婚だって、母が私の幸せのために決めてくれたことだもん。

私がウエディングドレスを見せてあげられたら、孫を抱かせてあげられたら、母がどれほど喜ぶか。

私にできる精一杯の親孝行。
父を亡くしてから、大変な思いで私を育ててくれた母への恩返し。

だから、私の今抱いている感情は捨てなければならない。

たったひとり、私が恋した男性と結ばれたいだなんて。
そんな人と出会ってしまったなんて。


私は首を振った。
いいや、私の感情なんていいんだ。
どちらにしろ、柏木さんは私に振り向かないし、私は母の願いどおり結婚する。


「いろは」


後ろから声をかけられ振り向くと、そこには母がいた。
ヒールの高いパンプスに、真夏なのにぱりっとクールに着こなされたパンツスーツ。


「お母さん、今帰り?」


「ええ、いろはは遅かったじゃない」
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