オトナの恋を教えてください
他に誰もいないオープンテラスで、柏木さんの唇は軽く私のそれに触れた。
温度だけを伝えて、すぐに離れていく唇。

柏木さんが柔らかく私を見つめていた。
驚いたように目を瞠り、嬉しそうに口の端を上げて。


「いろはは、そんなことを考えるようになったんだね」


「自分がどちらの気持ちに従えばいいかわからないんです」


こんなに悩むとは思っていなかった。
こんなに苦しくなるとは思っていなかった。

母に盲目的に従ってきた自分が正しいとは、もう思えない。


「俺には手伝えない。こればっかりは、いろはが納得できる結論を自分で見つけるしかない。
だけど、お母さんとは話し合う余地があるんじゃないか?きっと今まで、お母さんと話し合おうなんて思ってこなかっただろ?」


「母と……はい、母と意見をぶつけ合うことはなかったです」


「じゃあ、それも視野に入れて、考えないとな。
大丈夫、どんな結論でも俺はいろはの味方。彼氏で共犯だからな」


柏木さんがニッと笑い、請け負った。
あと少しだけの私の彼氏。


それでも、その言葉は心強かった。
ひとりでは見つけられなかった答えが見つかりそうだ。
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