オトナの恋を教えてください
いろはが息を飲むのがわかった。
そうだろうな。
普通は引くよ。こんな話が付き合おうとしてる男から出てきたら。


「A子の親も会社も巻き込んでの事件になったけど、俺の携帯にもPCにもA子からの脅迫じみたメールが残っていたし、先輩と同期も俺の潔白を証言してくれた。会社の顧問弁護士が訴えれば勝てるなんて言い出したけど、俺は平謝りするA子の親と示談にした。
彼女は二度と俺に近付かないっていう念書を書かされて、人づてに聞いたけど、今は海外で結婚してるらしい。
俺には、入社早々騒ぎを起こしたヤツっていう評価だけが残った」


「でも……柏木さんは被害者じゃないですか」


いろはが静かだけど憤慨した声で言う。
俺は首を振った。


「上司の心象までは変えられないよ。俺がA子のことを面倒くさがって放置していたのは事実だし。
この事件は戒厳令が布かれたけど、それが変な噂を呼んだ。
ある時、飲み会で別部署の先輩に言われたんだ。『おまえだろ?女を弄んで自殺未遂まで追い込んだヤツって』
正直、言葉が出なかった。違うって言いたいけど、言い切れない気もした。A子を追い詰めたのは確かに俺だもんな。
噂はいろんなカタチで広がって、気付いたら俺には『泣かせた女は数知れず、最低のタラシ野郎』っていう不名誉な二つ名がついてた」
< 237 / 317 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop