オトナの恋を教えてください
大事なことが他にあったはずなのに。
母を説得しなければと思っていたのに。

母の憎悪に触れた瞬間、私は幼児に戻ってしまう。

たったひとりの家族の愛を失うことに、恐ろしい強迫観念が付きまとう。


「自分が悪いと思っているなら、日曜のお見合いまで家でゆっくりしていらっしゃい。これ以上、私を苛立たせないでちょうだい」


言い放つと、母は自室に向かって廊下を歩いていってしまった。
私は呆然とその背中を見送る。


柏木さん、ごめんなさい。
母を説得するなんて言っておいて、私にはできないかもしれない。

私の心には枷がついている。
母を失いたくないというただひとつの根源的恐怖。




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