オトナの恋を教えてください
母が苛立たしそうにため息をついた。


「あなたはまだ子どもなの。人生の本質をちっとも理解していない。情熱に任せてバカな判断をしないよう、小さい頃から賢明にと育ててきたけれど、失敗ね。あなたも若さに任せた軽率な未来を選び取ろうとしているの?」


「お母さんはお父さんとの結婚を軽率だと思ってるの?」


母の表情が初めて動いた。
苛立ちや怒りとは別の、動揺に似た気配がかすめる。


「私、もう子どもじゃないよ。お母さんがお父さんと結婚した年になったよ。ひとりで判断できる年だよ。
お母さん、大好き。ずっとずっと、お母さんに笑ってほしくて生きてきた。でも、それだけじゃ私の人生は前に進まない」


大好きだから、愛しているから。
たとえ、ここで道をたがえることになったとしても、私は言う。


「私はお母さんの用意した道は歩かない。自分で探し当てた道を、自分の足で歩きたい。転んでも、息が切れてもいい。後悔しても納得する。生きていくってそういうことだと思うから」
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