オトナの恋を教えてください







その夜は、都庁近くで待ち合わせた。
会社からもさほど遠く無いけれど、穴場の店につれて行きたかったのだ。


「ステーキ、食べたくない?」


俺が聞くと、いろはは苦笑いする。


「少し」


「じゃ、決定な。近くにがっつり美味い店があるんだ。大丈夫、柘植と結構行くんだけど、うちの会社のヤツは見かけたことないから」


俺はいろはの手を取って歩きだす。
誰かに見られるかもという懸念と、いっそ目撃されたいという気持ちが半分ずつ。

いろはのためには見られない方がいいんだよな。


「異動の件さ」


歩きながら、いろはに告げる。


「来週いっぱいかな、こっちは。再来週から福岡だって。急だよなー」

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