オトナの恋を教えてください
「いろはは連れて行けないよ」


いろはが歩みを止めた。
俺は一歩後ろで固まるいろはを振り向く。

手はつないだままなのに、俺たちを隔てる壁が見えた気がした。


「私は……駄目ですか?」


いろはの声は震えていた。

泣かせたくない。
悲しませたくない。

だけど、そんなのは無理なのも知っている。


「当たり前だろ?いろはがお母さんと闘って、見合いを拒否したのは何のため?仕事が大事だからだろ?俺についてくるとしたら、仕事を辞めることになる。そんなの本末転倒だ」


「でも、私は柏木さんと……いたいです」


俺はわざと可笑しそうに笑い声をあげた。


「俺も、いろはといたいよ。好きなのは本当。でもさ、恋愛より仕事ってタイミングがあるよな。今回は俺、仕事を取りたい。いろはのお母さんを説得して、いろはを嫁にしてっていうプロセスは、手間が多すぎる」
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