オトナの恋を教えてください
いっそ、冷たく響けばいい。
嫌な男だって思われた方がラクだ。

いろはとは一緒に行けない。

それは今朝、辞令を聞いた瞬間から決めていたことだ。


「俺たちの関係は一回リセットしようぜ」


いろはを好きだと言った口で、いろはを拒絶する言葉を吐く俺は、なんて馬鹿げていて醜いんだろう。


いろはといたい。

いろはが望んでくれるなら、福岡へ連れて行きたい。

恋人としてでも、妻としてでもいい。

俺が一生幸せにするなんて、甘い言葉を吐いて、彼女の人生を貰い受ければいい。



だけど、そんなのは駄目だ。

いろははやっと、自分の足で歩き始めたのだ。
マザーコンプレックスから抜け出し、これから自分で世界を切り開いて行くのだ。

今やっと目の前が明るく開けたばかり。
生まれたての赤ん坊のようないろはを、愛や恋の感情だけで俺がさらっていけない。

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