オトナの恋を教えてください
山手のホームに向かういろはを見送りながら、その背を追いたくなる衝動を必死に抑えた。

いますぐ追いかけたい。
振り向かせて、抱き締めてキスをして。
全部嘘だ、好きだ、と叫びたい。

嫌だ。

いろはを失うなんて嫌だ。
あいつが他の男と恋愛して、幸せになるなんて我慢ならない。

だけど、未来の約束で彼女を縛りたくない。
彼女の隣にいられない俺は、手を離すのが一番。


抱き締めたい。
キスをしたい。
見つめ合って、笑い合いたい。


いろはにそれらを教えたのは俺なんだ。

これからのすべてだって、俺が……。



「やめろ」


歯を食いしばり、拳を握り、俺は自分に呟く。

家路を急ぐ人たちの流れから逸れ、広告を背に低い天井を仰いだ。
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