オトナの恋を教えてください
お店まではあと5分ほどの距離。
新宿の高層ビル群の間を並んで歩く。

手はつながない。

それは、付き合っていない私たちのけじめ。


「いろは、大事な話がある」


ふと、柏木さんが口を開いた。

私は立ち止まり、背の高い柏木さんを見上げた。

アーモンド型の綺麗な瞳。
口元のセクシーなほくろ。

1年前、一度だけの夜が、今でも私の心を満たしてくれている。


「なんでしょう?」


「来月、本社に戻る。配属は営業一課で建築資材関係」


思わぬ告白に驚く。
初耳だ。いつからそんな話になっていたのだろう。

それから、つい声をあげて笑ってしまった。


「たった1年で福岡暮らしは終わりなんですか?」


「それを言うなよ。俺も驚いてんだから」


はは、と柏木さんが情けなく苦笑い。

私たち二人とも、長いお別れだと思ったから、苦しんだのに。
現実は案外こんなものだ。
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