この列車は恋人駅行きです。
店の前には女性達がその王子を一目見ようと集まっている。
聞こえてくる黄色い声から、かなりの人気だと分かる。
「あのー、すみません。
雑誌komura編集部の者ですが……」
「はい。話は伺って……」
女性達の群れを押し退けて店の中に入って店員らしき男性の背中に声をかける。
黒髪をしっかりと整えた男性が私の方を向くと、その人物は店に来る前に思い出していたパティシエになるためにパリに留学したという高校の先輩そのものだった。
他人の空似ってこともあるし、名前呼んで間違えたら恥ずかしいし。
「もしかして…南条?」
「え、やっぱり裕臣(ひろおみ)先輩!?」
彼が先に聞いてくれたお陰で、私の予想はすぐに正解になった。
まさかこんなところで再会できるなんて……!
裕臣先輩は高校の先輩だけど、それ以上に私の愚痴や相談を嫌がりながらも乗ってくれた心許せる先輩。
「先輩、久しぶりです!
今まで何してたんですか!?
どうしてここで働いてるんですか!?
もしかしてパティシエになったんですか!?」
「お前なぁ…質問攻めなのは変わらないな」
気になることが多すぎて、久しぶりに裕臣先輩を困らせてしまった。