この列車は恋人駅行きです。
嫌そうにため息をつきながらも答えてくれるのが、裕臣先輩のいいところ。
「パティシエになるためにパリに留学して、パティシエになってパリで働いてたらその働き先であいつに会って、俺の店で働かないかと誘われ、今はここの副店長ってことだ」
先輩がスイーツ王子にオファーされたってこと!?
「そんなに出来るパティシエなんですか?先輩って」
「南条、お前は空気を読むことを覚えろ」
何でも許せる先輩だからこそ、思ってる疑問が素直に口から発せられる。
「…ヒロくん?誰か来たの?」
先輩と話していると奥から声が聞こえてきた。
この声には聞き覚えがあった。
いや、忘れることができなかった。
駅のホームで私を列の先頭へと誘導してくれた透き通る声、今でもはっきりと覚えてる。
「komuraの編集部の人が来ましたよ」
「あー、そういえば来るって言ってた…ね……」
姿を現した話題のスイーツ王子は、毎朝私の後ろに並ぶ王子ご本人だった。