この列車は恋人駅行きです。



私も隣の列のように自然な感じで一番後ろになるのか。



……最悪。



せっかく王子の姿を見て、今日も1日頑張ろうって思ってたのに。



もしかして今日の占いは最下位だったかな。



渋々後ろを振り返り、一番後ろに並んだ。



落ち込む私の目の前で、思いもしない出来事が起こった。



私の後ろに並んでいた人達をかき分けて反対側、3番線の先頭に私を手で導く。



「どうぞ?」



天使のような笑顔と笛のように綺麗に澄んだ声。



私の後ろに並んでいた王子が、私を先頭へと誘導してくれたのだ。



私が先頭に並んでいたから、先頭にどうぞって言ってくれてるんだよね?



ゆっくりと反対側の乗車口に足を進める。



すると自然と私の列は順番をそのままにぐるっと回って、一番後ろに並んでいた人は変わらずに一番後ろに並んだ。



「…あ、どうも…」



初めて見聞きした王子の笑顔と声に緊張してお礼を言おうと思って出た言葉がこれだった。



王子はイヤホンを耳にはめ、普通に私の後ろに並んだ。



それから直に電車が来て、私は先頭で乗ることが出来た。
でもそんなことどうでもいいと思ってしまうほど、王子の笑顔と美声が忘れられなかった。



イヤホンから流れる音楽も頭に入ってこなくて、王子のあの笑顔と美声が私の頭の中で永遠リピートしている。


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