まだ、心の準備できてません!
◇ライバル店の腹黒社員
由香と相談し合った結果、“もう一度夏輝さんと会ったら、素性を明らかにすること”という課題を与えられた。
しかし、こういう時に限って彼は姿を現さない。
本人に直接聞きたいけれど、もうお父さんに問い質してしまおうか、と思い始めた十月中旬。
倉庫で惣菜用の白いトレーが重ねられた包みを、配達用に段ボール箱に詰めていると、詰め終わったもうひとつの箱を取りに来た浜名さんが、こんなことを言い出した。
「ねぇ美玲ちゃん、最近店長元気ないわよね」
トーンを落とした声に反応して手を止め、彼女を見やる。
「やっぱり浜名さんも思いました? 私もちょっと気になってたんです」
「もしかしたら、あのことが原因なのかもしれないわねぇ……」
「あのこと?」
浜名さんが心配そうに、ため息混じりに言うものだから、私も急に不安になってくる。
しかも、“あのこと”とは何なのだろう。
眉根を寄せる私に、浜名さんは開け放たれたドアから事務所の方を見てお父さんが来ないことを確認した後、声をひそめて教えてくれた。
「実は、この間店長が事務所で誰かと電話してるのを偶然聞いちゃったんだけどね? 『“トワル”に客が流れる一方で……』みたいなこと言ってたの。頭抱えてたし、すごく悩んでる感じだったわ」