まだ、心の準備できてません!
ギョッとしていると、夏輝さんは腕を組んだまま自信に満ちた口調で続ける。


「おかげさまで、ここはオープン以来、客数も売上も毎月伸びている。評判も上々だし、商品や社員の質も高い」


それは、今初めて来たばかりの私にも、そうだろうとわかる。

同じ包装用品専門店なのに、マシロとはまったく違うって……。

目線を落としていると、夏輝さんは耳を疑うような一言を口にする。


「二号店を出す話も出ているんだが、その場所には──マシロが最適じゃないかと考えてる」

「……は!?」


二号店を……ウチの店がある場所に!?

信じられない計画に、ばっと顔を上げると、まるで冗談など言っていないような、精悍な表情の夏輝さんがいる。


「マシロが最適って、まさか……!?」


若干声を震わせて、思わず叫びそうになる私に、突然大きな身体が距離を縮めてきた。

後退りするにも、後ろには商品があるから限界がある。彼は身動き出来ないでいる私を閉じ込めるように、後ろの棚に向かって片手を伸ばしてきた。

あまりの近さにビクッと肩を跳ねさせた時、私の横に伸ばされた手は真っ赤なバラのオーナメントをつまみ上げ、目の前にかざす。

彼はそれをまるで花を握り潰すかのように軽く握ると、強さを秘めた恐いくらいに綺麗な瞳で、薄めの唇に弧を描かせて囁いた。


「──マシロはトワルが乗っ取らせてもらう」

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