まだ、心の準備できてません!
──ガン!と、頭を何かで殴られたような衝撃だった。

トワルがマシロを乗っ取ろうとしている……そんなこと、微塵も考えていなかったから。


愕然とする私に接近したまま、夏輝さんは手の中のオーナメントを遊ばせつつ、「吸収合併っていうのは聞いたことがあるだろ?」と冷静に言った。

もちろん聞いたことはあるけれど、頷くことも出来ない。

それでも私が肯定しているものとして、彼は話を続ける。


「トワルのこの店舗はまだまだ小さい。合併すれば規模の拡大が図れるし、一から立ち上げるより時間と労力も省ける。
君達も、店が潰れたら元も子もないだろう? ここと一緒になれば、従業員の雇用の存続も約束される。お互いにとってメリットばかりだ」


ただし、と付け加えた後、彼の口から無情な一言が発せられる。


「“マシロ”の名前や名残は消滅するが」

「そんなこと──っ!」


認められるわけない、と叫ぼうとした時、私の唇に彼の長い人差し指がそっと触れた。

その感覚に驚いて、ドキリと心臓が跳ね、息が止まる。


「店内ではお静かに」


どこか楽しむように目を細めて囁く彼に、怒りがむくむくと湧いてくる。

ムカつくー!と心の中で文句を言うけれど、指一本で黙らされてしまう自分も不甲斐ない……。

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