まだ、心の準備できてません!
◆敵か、味方か、王子様か?
『美玲、自分の大事なものは自分で守らなきゃダメよ』
お母さんが生きていた頃、私にそう言い聞かせていたのを今でも覚えている。
大切なものは人に預けたり、誰かをアテにしたりしないで、自分の手で守りなさい、と。
したたかで、どんな時も笑顔を忘れない、女王様みたいに綺麗なお母さんは、私の自慢だった。
お父さんと結婚する前から保育士として働いていたらしいお母さんは、明るくて怒るとお父さんより恐い、ハツラツとした人だった。
その職業柄のせいか、彼女は手先が器用で、折り紙や手芸でいろんなものを作ってくれた。
もちろんラッピングもお手の物。私が好きなのも、お母さんの影響に違いない。
私が産まれてマシロで働くようになってからも、休みの日は保育園や幼稚園の行事を手伝ったりもしていたくらいだから、本当に子供が好きだったのだろう。
でも幼い頃は、お母さんが自分以外の子を気にかけていることが少し不満に思うこともあって、独り占めしたくてよくヤキモチを妬いていたっけ。
そんな私を宥めるために、お母さんがよくくれたものが、甘いキャンディー。
口の中で溶かせると次第に気分が落ち着いていく、私にとっての精神安定剤みたいなもの。
それは今も変わらない……はずなのに。