まだ、心の準備できてません!
今日はちょうど全員が出勤する日。
開店準備をしながら、私は浜名さんと阿部さんに昨日のことを話した。
「えっ、あの色男さんがトワルの社員!?」
商品を並べていた浜名さんが、つぶらな瞳をまん丸にして声を上げた。
それに続いて、阿部さんも驚きと戸惑いを露わにする。
「トワルって、浜名さんが言ってたあのライバル店でしょう?」
「そう。だから前ウチに来たのも、敵情視察だったり、合併の話のためだったと思うんです」
甘いマスクの下に黒い考えを隠していた彼の姿が頭に浮かび、自然と表情が険しくなってしまう。
浜名さんは、まだ信じられなさそうに両頬に手をあてて叫ぶ。
「あんなに愛想良くて悪いこと考えてなさそうなイケメンなのに~!?」
「浜名さん、イケメンは関係ないから」
冷静につっこんだ阿部さんは、腕を組んで深刻そうなため息を吐く。
「吸収合併だなんて……私も嫌だわ。ここにはだいぶ長いことお世話になってるから、愛着もあるし」
「本当よ。私なんて美玲ちゃんのお母さんがいた頃から、ここにはお世話になってるんだから」
切なげに眉を下げる浜名さんに、私もちょっぴりセンチメンタルな気分になる。
浜名さんはここで働く前から、お客さんとして来ていたし、お母さんとも仲良くしてくれていたもんね。