まだ、心の準備できてません!
促された通り、私はブラインドが下がる窓の前に設置された、ホワイトボードに近い席に座ることにした。

隣に座る三十代くらいの女性と、笑い合って会釈しながら座ると、浅野さんはテーブルに置いてあった資料を皆に配り始める。


……そっか、浅野さんは講師ではないんだもんね。

ほんと、普段はここでどんな仕事をしているんだろう。やっぱりこの人の立場が気になるなぁ……。


渡された資料と、浅野さんを交互に見ながら考えていると、数人の受講者がやってきた。

席についているのは全員で七人。もう予定時刻のニ時になるし、きっと今日はこの七人で受けるのだろう。

和やかな雰囲気で皆が少しだけ話していると、ドアが開かれ、誰かが姿を現した。


「──ミキ」


私がその人の方に顔を向けると同時に、ホワイトボードのそばに立つ浅野さんの口から発せられた名前。

そして、入ってきた人物を見て、心が小さく揺れ動いた。


「お疲れ様です」


浅野さんと、私達に向かって笑顔で挨拶するのは、私が初めてトワルを見に来た時に接客していた、美人な女性だ。手には様々なラッピングの資材が顔を出した段ボール箱を抱えている。

この人が、講師の“ミキさん”──?

ジャスミンさんが言っていた、浅野さんとブライズに来たという女性は、この人だったの?

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