まだ、心の準備できてません!
「もう名前では呼びたくなくなったんです」


目線を合わさないまま、ぼそりと正直に言い、缶に口をつけた。

どんな反応をするだろう。あなたに対する私の印象が変わったということに気付くかな。

しかし、浅野さんから返ってきたのは予想外の言葉。


「あ、そう。じゃあ俺は今度から“美玲”って呼ぶよ」

「意味がわかりません!」


どうしてそうなる!?と、眉を歪ませてつっこんだ。

けれど、真剣さが伺える視線を私に向ける彼に気付いて、思わず目を見張る。


「──美玲」


予告通りの呼び捨て。

ぞくりとする、甘美な声で呼ばれた名前は、聞き慣れたそれとはまるで別物のように思える。

目で女性を落とすことが出来そうなくらいの、魅惑の瞳で見つめられるのも苦手なんだって……。


見えない鎖に捕らえられたみたいで動けない私に、浅野さんの手が伸びてくる。

ビクリと身体を強張らせるけれど、何故か嫌悪感は湧いてこない。

そんな自分を不思議に思ったのも一瞬で、甘く、どこか切なげにも見える表情に目が奪われてしまう。


「君にとって、俺は特別な存在でありたいんだよ。良くも悪くも」


本心を読み取れない静かな声と同時に、彼の指がするりと頬を滑り、そっと掻き上げた髪を耳に掛けた。

その仕草はとても優しいのに、心臓は激しく動いて止まない。

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