まだ、心の準備できてません!
ちょっとちょっと、何この状況……! これはアレよ、ブライズで飲んだ時と同じ危険な香りがする!

でも、ここはオフィス。お酒を飲んでいるわけでもないし、この間みたいに都合良く眠りに落ちてはくれない。

どうしたらいいのー!?


……と、心の中では大騒ぎだけど、動かすこともやっとの唇からは、カタコトの言葉が漏れる。


「い、言ってること、意味わかんない……」

「いいよ、今はわからなくても」


私の耳と頬に触れ続ける彼は、「でも」と穏やかな口調で続ける。


「俺にこうされて、自分がどう感じてるかはわかるだろ」


セクシーさを存分に含んだ声に、ドキン、と大きく心臓が揺れ動いた。

どう感じてるか?って……。


ものすごくドキドキして、触れられている部分だけが火傷しそうなほど熱い。

……ううん、それだけじゃなくて、心の奥も。

熱く疼いて、でも不快ではない。

ここがオフィスだとか、目の前の相手がライバルだとか、そんなことも関係なく思えるくらい、今の私は浅野夏輝という男にただ意識を支配されている。


この感覚、初めてじゃないな。むしろ懐かしい。

以前同じ感覚に陥ったのは、いつだっけ──。

< 154 / 325 >

この作品をシェア

pagetop