まだ、心の準備できてません!
私の存在をまるで気にしていない様子で、彼女は手元のノートに何かを綴っている。

ホワイトボードも、テーブルの上に広げられていたラッピングの資材も、綺麗に片付けられているけれど……。


「まだ、お仕事されるんですか?」


時計の針が動く音しか聞こえない、無言の空気が気まずくて、勝手に私の口が動いていた。

走らせていたペンをぴたりと止めると、三木さんは無表情のまま私を見上げる。

そして、またノートに目を落とすと、業務内容のように淡々とこう告げた。


「今日の講習の内容をまとめていただけなので、もう終わります」

「そ、そうですか……!」


会話終了。

チーン、という虚しい音が頭の中で鳴り、私はがっくりと肩を落とした。

彼女のこの変わりようはいったい……。機械的な言動が、本当に感情のない人形みたいだ。

今までの、笑顔が素敵で物腰も柔らかい三木さんはいずこへ?


不思議で仕方なく、のっそりと紙袋を持ちながら彼女を見ていると、ふいにその綺麗だけど表情のない顔が上げられた。


「真白さんも早くお帰りになった方がいいんじゃないですか? もう暗いですし」

「あ、はぁ……」


苦笑混じりで、曖昧に返す私。

気遣ってくれているようだけど、あまり優しさは感じない……。むしろ、“早く帰れ”と言われているような気が。

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