まだ、心の準備できてません!
「だって、あんなふうに微笑まれてあんなこと言われたら、そりゃその気になっちゃうわよー! 嘘でもいいって思っちゃうもの、私達みたいなオバサンは!」

「えぇーー!?」


驚愕する私の肩をバシバシと叩く阿部さんは、ほんのり頬が赤く染まっている。

照れてる阿部さん、初めて見たかも……可愛い。じゃなくって!


「よ、良くないですよ! あれは私達を手なずけようとしてる、あの人の常套手段なんですよ!?」

「いやーもうその腹黒ささえも萌えるわ、あんなイイオトコなら」


さっきまでの牙を剥いていた姿はどこへやら、腕を組んで感心したようにうんうんと頷いている。

ちょっと待ってよー、ふたりとも甘い毒牙に簡単にかかりすぎ!

阿部さんの腕を掴んで眉を八の字にする私に、彼女は思い出したように言う。


「あっ、でもマシロはちゃんと守るわよ! それとこれとは別だから!」

「阿部さんも説得力ないですって……」


彼女の腕を掴んだまま、私はがっくりと盛大にうなだれた。

本当に大丈夫かなぁ、この先……。

マシロの大事なパートさんふたりの心を、いとも容易く奪っていった男。彼の黒い思惑から逃れるのは、やっぱり一筋縄ではいかないらしい。


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