まだ、心の準備できてません!
「まさか美玲がこんなお店を知ってるなんて思わなかったぁ」


ひとまず飲み物を頼んで乾杯した後、ビールのグラスを片手に由香が意外そうに言った。

私は前回の反省を活かしてウーロン茶だ。それで喉を潤し、さっぱりとした声で返す。


「浅野さんが連れてきてくれたの。最初はびっくりするけど、慣れると楽しいでしょ?」

「うん! ジャスミンさん面白すぎて、ブルーチーズくらいクセになる~」

「その例えはいいのか悪いのか……」


口に手をあてて無邪気に笑う由香に、私は微妙な顔をしながらメニューを広げた。

それを左隣から覗き込みながら、陽介が何気ない調子で尋ねる。


「浅野さんって誰?」

「あ、陽介くん知らないんだ」


グラスを置いて、難しそうな顔になる由香。


「絶対嫉妬しちゃうから聞かない方がいいかもね。だって、美玲を強引かつ甘ーい言葉で誘惑しちゃう、大人のイケメンなんだもん」

「もう言っちゃってるし!」


由香の天然なサーブを、気持ち良くスパーン!と打ち返した陽介は、眉をぎゅっと寄せて私に詰め寄る。


「ていうか、そんな男がいたのかよ?」

「う、うーん……」


気まずくなって、私は目線を合わさないままぎこちない笑いを漏らした。

< 176 / 325 >

この作品をシェア

pagetop