まだ、心の準備できてません!
陽介の立場になれば、私に言い寄る男がいるって知ったら嫌な気持ちになるよね。だから今まで言わなかったわけだけど。

「でもね」と、私は頬杖をついて言葉を続ける。


「あの甘い言葉は、私のことを気に入ってたわけじゃなくて、全部仕事のためだったんだよ」


投げやりにそう言ったけれど、口に出すと改めて実感してしまって。

イライラより、何故か悲しさが襲ってくるものだから、顔が歪みそうになるのを唇を噛んで堪えた。


「どういうこと? 全然わかんないんだけど」


首をかしげる由香と、同じくハテナマークを浮かべる陽介に、「とりあえず何か頼んでから話すね」と言って、もう一度メニューを眺め始めた。



居酒屋と変わらない、枝豆やなんこつのから揚げをカウンターに並べ、それをつまみながら浅野さんのことを話した。

申し訳ないけど陽介の気持ちはお構いなしで、心に溜まっていたモノを吐き出す。

最初驚いていた由香は、だんだんお怒りの表情に変わってきている。


「なにそれ、許せない! 女の敵!」

「結構クセありそうだな、その浅野って人」


浮かない顔をして片手で頬杖をついている陽介に、「ありまくりだよ」と返した。

頭には黒い冷ややかな笑みを携えた腹黒王子が浮かぶ。

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