まだ、心の準備できてません!
◆ふたりの間で揺れる心
街はクリスマスムード一色になっている、十二月最初の金曜日。
私は“フローリスト・ハーティ”の前で、店先に並べられたポインセチアやシクラメンの鉢植えを眺めながら、陽介を待っている。
時間も場所も前回と同じ今日の講習会には、ふたりで歩いて行くつもり。
ぴゅう、と肌を刺す風が吹き、ぐるぐると巻いた赤いチェック柄のマフラーに顔半分を埋める。
その時、お店のドアが開いて、ダウンジャケットに細身のカーゴパンツを合わせた私服姿の陽介が、いつもの可愛らしい笑顔で現れた。
「お待たせ。中入ってればよかったのに。寒いでしょ」
「平気平気。いつもチャリ乗ってるから寒さには慣れてるし」
さっそくトワルに向かって歩き出しながら軽く言ってのけると、陽介はクスッと笑いをこぼした。
「やっぱり、みーちゃんはみーちゃんだね」
その意味がよくわからず、首をかしげて隣を歩く陽介を見やる。
「どういう意味?」
「こういう時、計算する女の子だと“寒かったよー”って言って男の気を誘うんだよなぁと」
……なんだか、女の何たるかを知り尽くしているような、陽介らしからぬ発言。
違和感があって、しばし“計算する女の子”のことを考えると、自然とある人の姿が思い浮かぶ。