まだ、心の準備できてません!
……なに、今の。

怖いくらいの無表情で、でもどこか哀愁を感じるような……。あんなカオ、初めて見た。

いつもなら、去り際まで余裕の笑みを絶やさないじゃない。

たいしたことじゃないかもしれないけど、なんだか気になって仕方なかった。


「変なの……」

「……みーちゃん、やっぱりアイツと仲良いんだね」


ぽつりとこぼれた呟きと、陽介のダークな声が重なった。

ギクリとしながら振り向くと、彼はじとっとした目でこちらを見据えている。今日は怖いな、エンジェルボーイ……。

私はぎこちなく笑いながら、とりあえず否定する。


「や、仲なんて全然良くないよ! ほら、言ったじゃん。ああいう言葉で惑わすのが、あの人の常套手段なんだって」

「ふーん……」


納得したようなしていないような、曖昧な相槌をうつ陽介の手を引っ張り、「さ、早く行こう!」と歩き始めた。

頭の片隅では、浅野さんの微妙な表情の変化を気にしつつ。


今日は彼がいないなら、ちょっと気が楽かも。いたら陽介がまた吠えることになりかねないし。

そういえば、ふたりで飲んだあの夜のことを陽介に言うとかって、この間言っていたっけ。

今それを暴露されなくて、まだよかったかな……。


とりあえず講習会に集中しなくちゃ、と思考を切り替えながら、私達はトワルの店内に入った。


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