まだ、心の準備できてません!
突然そんなことを言われて、穏やかだった鼓動がその動きを速める。

喉に詰まって声が出ず、ただ彼を見上げると、熱を帯びた真剣な瞳に捉えられる。

そして、テーブルに乗せていた手に、陽介のそれがふわりと重なった。

──ドキン、と跳ねる心臓。

さっき手を繋いだ時は、熱さも、緊張も、こんなに感じなかったのに……。


「このまま、帰したくない」

「陽、介……」


甘いセリフに、熱い眼差し。

急にオスの部分を覗かせる彼に、私はどぎまぎしてしまう。

好きな人にこんなことを言われたら、きっとこの上なく嬉しいはず。

でも、この状況から逃げ出したくなってしまう私は、やっぱり陽介のことを──。



「……なんて、こんなこと言っても無駄だってわかってるよ」


そっと手を離した陽介は、独り言のようにぽつりと漏らした。

上目遣いで彼を見ると、私から離した手をくしゃりと髪に潜らせ、嘲笑を浮かべている。


「みーちゃんが何と言おうと、自分のモノにするくらいの強引さがあればいいんだけど、そんなこと僕には出来ないんだよねー……。ヘタレだよ、ほんと」


自嘲気味に吐き捨て、目を伏せる陽介に、ズキンと胸が痛んだ。

< 199 / 325 >

この作品をシェア

pagetop