まだ、心の準備できてません!
少しの沈黙の後、私はまだ半分ほどしか減っていないカクテルを、見るともなく眺めながら口を開く。


「……ヘタレとは違うと思うよ。陽介はすごく優しいんだよ」


陽介は強引に迫ることはあまりしないけど、だからこそ、彼の言動は私を気遣ってくれていることがわかる。

それはとても心地良くて、胸に羽根が降り積もるような、優しいときめきをくれたりするんだ。


だけど──例えば、浅野さんの場合は。

いくら突き放そうとしても、私の中に強引に割り込んできて、掻き乱す。

やめてほしいはずなのに、何故か嫌悪感が湧くことはなく、勝手に心臓が暴れてドキドキさせられる。


陽介のような優しい愛をくれる人の方が、きっと幸せになれるはずなのに。

どうして私は、彼の想いを受け入れることが出来ないのだろう──。


お互いに考え込んで、再び生まれてしまった沈黙を、今度は陽介の声が破った。


「まだ僕もフラれるための心の準備は出来てないから、今告白するのはやめとくよ」


私の気持ちを見透かしているであろうことを、茶化したように少し明るい口調で言う。

その顔は笑っていたけれど、内心ではどうだろうか。

複雑な気持ちを持て余したまま、けれどそれをお互い表面に出すことはなく、それからはたわいない話をして過ごしたのだった。


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