まだ、心の準備できてません!

お腹が満たされた頃、時刻は七時半を過ぎていた。

恋愛のことになると気まずくなってしまうけど、基本私達は息が合うから、なんだかんだで長居してしまう。

居酒屋を出ると、一層厳しくなった寒空の下を、ふたり身を寄せ合うようにして歩いた。


しばらくして、トワルの裏手にあたる人通りの少ない道に差し掛かると、聞き覚えのある声がどこからか響いてくる。

なんとなくそれを気にしつつ歩いていると、私が歩く歩道側から聞こえた気がして、ぱっと顔を向けた。

すると、そこは駐車場で、一台の車の近くにふたつの影がある。しかも、私達からの距離は数メートルと近い。

ふたりはこちらを見ていないものの、私にはしっかりと姿がわかる。

その瞬間、私は咄嗟に駐車場を囲うフェンスの陰に隠れていた。


「え? ちょっ、みーちゃ……」

「しーっ! 静かに!」


陽介のコートの袖を引っ張り、彼も巻き添えにしてフェンスに身を隠すと、人差し指を唇にあてて声を潜めた。

思いっきり怪訝そうな顔をする陽介も、ひそひそ声で言う。


「どーしたの、突然!?」

「ごめん……! ちょっと、あそこ見て」


少しだけフェンスから顔を覗かせて指差すと、その方向を見た陽介も不思議そうに言う。


「あれ……浅野さんと、三木さん?」

< 201 / 325 >

この作品をシェア

pagetop