まだ、心の準備できてません!
お腹が満たされた頃、時刻は七時半を過ぎていた。
恋愛のことになると気まずくなってしまうけど、基本私達は息が合うから、なんだかんだで長居してしまう。
居酒屋を出ると、一層厳しくなった寒空の下を、ふたり身を寄せ合うようにして歩いた。
しばらくして、トワルの裏手にあたる人通りの少ない道に差し掛かると、聞き覚えのある声がどこからか響いてくる。
なんとなくそれを気にしつつ歩いていると、私が歩く歩道側から聞こえた気がして、ぱっと顔を向けた。
すると、そこは駐車場で、一台の車の近くにふたつの影がある。しかも、私達からの距離は数メートルと近い。
ふたりはこちらを見ていないものの、私にはしっかりと姿がわかる。
その瞬間、私は咄嗟に駐車場を囲うフェンスの陰に隠れていた。
「え? ちょっ、みーちゃ……」
「しーっ! 静かに!」
陽介のコートの袖を引っ張り、彼も巻き添えにしてフェンスに身を隠すと、人差し指を唇にあてて声を潜めた。
思いっきり怪訝そうな顔をする陽介も、ひそひそ声で言う。
「どーしたの、突然!?」
「ごめん……! ちょっと、あそこ見て」
少しだけフェンスから顔を覗かせて指差すと、その方向を見た陽介も不思議そうに言う。
「あれ……浅野さんと、三木さん?」