まだ、心の準備できてません!
「あ、私バインダー持ってこようと思って忘れちゃった」


阿部さんの独り言で、思考を仕事のことに戻した私は彼女に言う。


「伝票を挟むんですよね? 私、検品するついでに事務所でやってきますよ」

「いい? ごめんね」


笑って首を横に振り、伝票を受け取って事務所に向かった。

時刻は午後三時になろうかというところ。

もしお父さんの事務仕事が片付いたら、また早めに帰ってもらってもいいんだけど……と思いながら、事務所のドアを開けようとした、その時。


──ガタガタンッ!と、デスクか何かに物が当たったような音が中からして、ビクッと肩が跳ねた。

なに……? お父さんが何か落としたのかな?

そんなふうに簡単に考え、私はドアを開ける。


「お父さん? どうし──」


言いかけた時、目に飛び込んできた光景に、心臓が止まるかと思った。


お父さんが座っているはずのデスクに、彼の姿はなく。机の上に置かれた電話の受話器が外れて、ぶらりと床に垂れ下がっている。

それを追って目線を下げていくと……

デスクの横、冷たい床の上に、うずくまるようにして倒れている人の姿があった。


「──お父さんっ!?」


悲鳴を上げるように叫び、すぐさま駆け寄る。

わずかに歪み、青ざめた顔。呼び掛けても応答がない。

私の身体から一気に血の気が引いていく。

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